どうも、担当者のヤマケンです→今回の疾病はいったいどのような病態なのでしょうか?それでは皆さん、御一緒に診ていきましょう。
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どんな病気?
糖尿病性自律神経障害(とうにょうびょうせいじりつしんけいしょうがい)とは…糖尿病の慢性的な合併症の一つであり、自律神経(交感神経+副交感神経)が障害されることで、全身のさまざまな機能に異常を引き起こす疾患です。
自律神経は、心血管系/消化器系/泌尿器系/発汗機能 などの無意識に行われる体の働きを調整しているため、その障害は生活の質(QOL)を大きく低下させる可能性があります。

この記事は次のような人におすすめ!
・身体の不調で当てはまりそうな病気を探している
・副交感神経疾患について勉強している
・知的好奇心が旺盛
1.原因


原因とは…病気の発症メカニズム(病因論)の中でその役割が科学的に証明されることで認識され、複数の要因が相互に影響し合って病気を引き起こす場合もあり、それは 誘因/危険因子 として区別され「その疾患を成立させるために必要で且つ十分な条件」と定義できます。
以上を踏まえると、糖尿病性自律神経障害においては高血糖の持続による神経の損傷です。具体的には、以下のようなメカニズムが関与しています。
|酸化ストレス/炎症
酸化ストレス/炎症
高血糖が続くことで、体内に活性酸素(ROS)が増加し、神経細胞が損傷を受けやすくなります。さらに慢性的な炎症が、神経の機能低下を引き起こします。
|神経栄養不足
神経栄養不足
高血糖は血管を傷つけ、特に細い血管(毛細血管)に障害を与えることで、神経への栄養供給が低下します。
|ポリオール経路の活性化
ポリオール経路の活性化
高血糖の影響で神経内のソルビトールが増加し、細胞内の浸透圧バランスが崩れ、神経障害が進行します。
|糖化最終産物(AGEs)の蓄積
糖化最終産物(AGEs)の蓄積
高血糖が続くと、体内でAGEs(Advanced Glycation End Products)が生成され、神経細胞の構造や機能が損なわれます。
2.症状


症状とは…患者自身が主観的に認識する身体的または精神的な異常のことを指し、これは医療者が観察可能な徴候(しるし)と区別され⇒痛み・疲労・吐き気・不安 など、患者の自覚に基づく訴えが中心です。
症状は病気の診断や治療方針の決定において重要な情報源であり、患者と医療者のコミュニケーションを通じて初めて明らかになる点が特徴で、糖尿病性自律神経障害においては影響を受ける臓器系によって、以下のように様々な症状を引き起こします。
|心血管系の異常
心血管系の異常
> 起立性低血圧
立ち上がると血圧が急低下し、めまいや失神を引き起こす。
> 安静時頻脈
通常より心拍数が速くなる。
> 無痛性心筋梗塞
心筋梗塞が発生しても痛みを感じにくく、発見が遅れる。
|消化器系の異常
消化器系の異常
> 胃不全麻痺
胃の動きが低下し、胃もたれ/嘔吐/食欲不振 を引き起こす。
> 下痢/便秘
腸の運動機能が異常をきたし、便秘と下痢を繰り返す。
|泌尿器/生殖器系 の異常
泌尿器/生殖器系 の異常
> 膀胱機能障害
尿意がわからなくなり、尿閉や失禁を起こす。
> 勃起不全(ED)
性欲が減退してしまう。
|発汗異常
発汗異常
> 過剰な発汗
特に上半身で多く、下半身では少ないことが多い。
> 無汗症
汗をかけなくなり、体温調整が難しくなる。
|低血糖無自覚症候群
低血糖無自覚症候群
低血糖が起きても動悸や発汗などの自律神経反応が起こらず、気づかないうちに重篤な低血糖状態に陥ることがある。
3.治療


治療とは…病気やケガなどの健康状態の異常を 改善/回復 させることを目的として行われる行為や介入を指し、具体的には⇒薬物療法・手術・リハビリテーション・心理的支援 などの方法が含まれ、症状の軽減/原因の除去/生活の質向上 を目指します。
治療の本質は科学的根拠に基づき、患者個々の状況に応じた最適な介入を選択することにあり、糖尿病性自律神経障害においては完全に回復させる治療法は存在しませんが、以下のように 進行を抑える事/症状を緩和する事 が可能です。
|血糖コントロールの最適化
血糖コントロールの最適化
血糖値を適切な範囲(HbA1c 7.0%未満が推奨されるが、個人差あり)に維持することで、進行を遅らせることができます。
SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬などの『新しい糖尿病治療薬』が、神経障害の進行を抑える可能性があります。
|症状に応じた対症療法
症状に応じた対症療法
> 起立性低血圧
塩分摂取の増加/弾性ストッキングの使用/ミドドリン などの薬剤を使用する。
> 胃不全麻痺
少量ずつ頻回の食事、消化を助ける薬。(メトクロプラミド など)
> 排尿障害
膀胱訓練や、場合によってはカテーテルを使用する。
> 勃起不全(ED)
PDE5阻害薬の使用。(シルデナフィル など)
|神経機能を保護する薬物療法
神経機能を保護する薬物療法
α-リポ酸は抗酸化作用があり、神経障害の進行を抑える。メチルコバラミン(ビタミンB12)は神経修復を助ける効果がある。
4.予防


予防とは…病気が発生する前にそのリスクを減少させる、または病気の進行を抑制し健康を維持するための 行動/介入 を指し、これには⇒一次予防(発症の防止)・二次予防(早期発見と治療)・三次予防(病状の悪化防止)が含まれます。
予防は個人の行動+社会環境+医療介入 の三位一体で行われるものであり、糖尿病性自律神経障害を防ぐためには以下のように糖尿病の管理が重要です。
|血糖管理の徹底
血糖管理の徹底
食事療法/運動療法/薬物療法 を適切に組み合わせて、血糖値の急激な変動を防ぐ。
|生活習慣の改善
生活習慣の改善
> 食事
低GI食品を取り入れ、食物繊維や抗酸化物質が豊富な食品を摂取する。
> 運動
有酸素運動(ウォーキング/サイクリング など)と筋力トレーニングを組み合わせる。
> 禁煙
喫煙は血管障害を促進し、神経障害を悪化させるため、禁煙が推奨される。
> 飲酒の制限
過剰なアルコール摂取は神経障害を悪化させる。
|定期的な検査
定期的な検査
糖尿病患者は定期的に自律神経機能検査(心拍変動検査/起立試験 など)を受け、異常がないかチェックする。初期症状に気づいたら、早めに医師に相談する。
おわりに
糖尿病性自律神経障害は、高血糖の持続による神経損傷が原因で発症し、心血管系/消化器系/泌尿器系 など多岐にわたる症状を引き起こします。完治は困難ですが、血糖コントロールの最適化と生活習慣の改善によって進行を遅らせることが可能です。発症を防ぐためには、早期の血糖管理と定期的な検査が重要です。